続 渡慶次の歩み
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第11章 渡慶次の芸能と年中祭祀

第4節 歌劇「八重山節」

 

登場人物

主(スー) 母(アンマー) 松 カマル(女郎)
チルー 高利貸 ナカシ樽(タルー)
ナカシ次郎(ジルー)
 
 第1幕 女郎(ジュリ)のヌ家(ヤー)
【ナレーション】時は大正3年の春、花の都に情熱の恋を語り続ける2人の若者があった。
〔カリキ節〕
カマル
来(チュ)る正月ね我った島かい行(ン)じちゃーびらたい
 

八重山(ィエーマ)かいなー いったー 生まり島、ヤキイ所(ドクル)
(ヤキイ=マラリアなどの伝染病)
 
カマル
いえたりうんじょう、ちゅぬ島なさがち 炭坑なかいるヤキイやあやびる
島ね ヤキイや ねーびらんしが
 

来る正月ね 行(ン)じんだや カマル
 
カマル
本当(フントー)なーたり
 

いったー 父(スー)、母(アンマー)、御見舞(ウミメー)いなざき幸運丸からうち乗て 行かやー
 
カマル
あんさびらやー
 
〈女郎の家に松の母登場〉

くまいっちゅた いっちゅた
 
カマル
誰(タル)が やいみせら
 

用事(ユーズ)ぬあるむん 入らいー いっちゅた
いえー松小(マツグヮー) いやあや 月や360日 女郎(ジュリ)ぬ家(ヤー)にくまて 飲(ヌ)だい 食(クワ)たい
家庭(チネー)ぬ立場や んちくゎいさみ 妻(トゥジ)ぬ親(ウヤ)ぬ家(ヤー)から 妻そーいがめんそうちょうしが やらすみ ちゃーすが
 

妻(トゥジ)ぬ親(ウヤ)ぬ家(ヤー)から 妻(トゥジ)そおいがちようらば やらしみそーれー 我ねー くぬカマル妻(トゥジ)にすゆん いいばーやいびさ やらしみそーれー
 
〈立ち聞きしていた父が刀を手に登場〉

すばうとて 聞(チ)ちゃる 悪口(ヤナグチ)ぬはごうさ とてん一刀(チュカタナ)に殺(クル)ちしてら
 

いいばーやいびさ 殺(クル)ちきみそうれ
 
カマル
我んにん、むるとも 殺(クル)ちきみそうれ
 

他人(ユス)までぃん殺(クル)ち 我が世間(シケ)なゆみ 二人(タイ)やくぬまま許(ユル)ちきみしょり
 

いやーが うりふど やらば許すさ
 
110345-八重山節
 
〔連(つら)ね〕

むちり行く先(サチ)や ちゃーならわん無蔵(ンゾ)よ 変わるなよ互(タゲ)に あの世(ユ)までん
 
【ナレーション】月日は流れ3年。松が去って母親は胸を患い、悲しくも松への遺言状を残し、わが子の名を呼び続けてこの世を去った。本妻のチルーは風の便りに夫、松が八重山で苦労しているのを聞き「さがしに行かせて下さい」と父親に頼む。
 
 第2幕
〔連ね〕
チルー
たんり親(ウヤ)ふわーふじゆ
御願事(ウニゲグゥトゥ)しやびら わが夫(ウト)ぬ事ど 八重山(ィエーマ)波照間に哀りしちうんり 聞(チ)ちうやびむぬ 神仏(カミフトゥキ)するて見守(ミマム)やいたぼり
 
主(スー)
チル小よ 今(ナマ)ぬ願事(ニゲグトゥ) 聞(チ)ちんじぬんすれー 3年くぬかた色々胸(ンニ)焼かさってん
今(ナマ)ん我(ワン)夫(ウト)んり思(ウム)て 神仏(カミフトゥキ)んかい 念願(ニングヮン)するぐとやしが 誠いやーや 侍(サムレー)ん子(グヮ)ぬしるしやさ
 
〔道の島節〕
チルー
たんり親(ウヤ)がなし 御願事(ウニゲグトゥ)しやびら 我が夫(ウトゥ)ぬくとどゆわれ八重山(ィエーマ)波照間に哀りしちめん聞(チ)ちうゆり 我んね 我んねういびいしが 冬やなてくりば ただや行かりらん 行ちゅる船賃とゆわれ 布団蚊帳(ウールカチャ)ぬ代金(デー)とや 持(ム)たちきみそうーれー
 
主(スー)
いやーがうりふどに 思(ウム)てどんうりば いちる船賃とゆわれ 布団蚊帳(ウールカチャ)ぬ代金(デー)とや むたちやらすぐと 急(イス)じいんじ連(ソー)てぃくりは かなし我が嫁小(ユミグヮー)
 
チルー
にふぇーでーびる 親(ウヤ)がなしーたり 連(ソー)てぃ来(チャー)びらふ
 
【ナレーション】かくてチルーは父の温かい情に打たれ、今や恋しい夫を連れ戻すべく、なつかしい故郷を後に、チルーの乗った船は八重山に向かったのである。そして船は八重山石垣港の桟橋に着いた。ちょうどその時、上陸客の手荷物運搬日雇いとして働いている1人のみすぼらしい男の姿を見て驚き、そこで2人ははじめて言葉をかわす。
 
 第3幕 港の場面
〔トゥータンガーニー節〕
ナカシ樽(タルー)
いえー船(フニ)ぬ見ゆんどー港ぬ先(サチ)から船(フニ)ぬ見ゆんどー ありや幸運会社ぬ船(フニ)
すらあらんがや
 
ナカシ次郎(ジルー)
いえー今日(チュー)ぬティマ小(グヮー)や ソバ屋に行ちゅみ あんむち屋に行ちゅみ
なれー芝居るましあらに 渡慶次ぬ芝居見(ン)ちくーやー
 
〔県道節〕
ナカシ次郎
くぬ荷物や やーさータルーにあぎらさや タルーにあぎらさや
くぬ三百斤(サンバッチャー)やーさー 松(マチュー)にあぎしだや 松(マチュー)にあぎしだや
 
ナカシ樽
かんねる那覇小(ナーファグヮー)さー やくんちりたたんさ やくんちりたたん
松がならんしやーさー 我がかたみゆんさ 我がかたみゆん
 
〔道の島節〕

八重山(ィエーマ)てる島や知りなぎな我身(ワミ)や 色(イル)に迷(マユ)たしや ゆはれ 我身(ワミ)ぬ不足(フスク) 我身(ワミ)ぬ不足(フスク)
さりさりアヤメー荷物(ニムチ)ぬあら 持(ム)たちきみしようり代金(デー)安(ヤシ)みて持(ム)っちうさぎら
持(ム)たちきみしょうり
 
〔ウヤンマ節〕
チルー
あきよ 思里(ウミサト)や うぬないになたる うんじゅくる うんじゅ なちゃるしわざ
 

くぬないになりば 合わす顔(カウ)ねらん 我(ワン)んや くぬままに許(ユル)ちきりよ
 −幕−
 
 第4幕 家の場面
【ナレーション】松は、カマルのことがあきらめきれずカマルと八重山に残るという。しかし、カマルに1人しかない親に孝行しなさいと悟され、チルーと帰る決意をする。
 
〔連ね〕
チルー
哀り母親(ハハウヤ)や うんじゅゆいなかい 今(ナマ)や草ぬ葉ぬ露(チユ)と ときみしよち くいがえし がえし 里がくと言ちょて くりど母親(ハハウヤ)ぬ遺言でびる
 
〈遺言を読む〉

たんりよいなし子(グヮ) くぬ遺言や嫁(ユミ)ぬ筆(フディ)借やい書ち残(ヌク)ちうちゅん 親や いやんちゆいぬ子(クヮ)ゆなし出(ン)じゃち 女郎(ジュリ)花にまゆい 酒色(サキイル)にふちり今(ナマ)やゆす島に 哀りしちうんり
たんりよいなし子(グヮ) 心(ククル)改みりくりる我が遺言しむちきるな
 

アヤーさい アヤーさい くぬ母不幸ぬ罪(チミ)や 許ちうたびみしょり
 
〈カマルがお茶を持ってくる〉
〔連ね〕
カマル
ぬがし思里(ウミサト)や むぬみ顔しちょる 思事(ウムクトゥ)ぬありば語てぃたぼり
 
〔サラリー節〕

語ゆぐとカマル 心配(シワ)んすなカマルよ 母や我(ワン)ぬ為なかいこの世(ユ)振り捨(シ)ててぃ
あの世(ユ)の人(チュ)になたんよ 我(ワン)ゆか不孝(フクー)ぬ子(クヮ)やうらん
 
カマル
うぬちふぁゆやりば 沖縄(ウチナー)かい いもーちよ 一人(ヒツイ)いめーる親(ウヤ)に孝事語(コージガタ)ゆみしょうりよ
 

我身(ワミ)ぬたみなかい この哀りしみてよ カマルなぎてや 我(ワ)ね行かん
 
カマル
くぬ島や我身(ワミ)ぬ生まり島(ジマ)ゆでむぬよ 親兄弟(ウヤチョーデー)語とて暮らさびん
 
チルー
い言葉(クトゥバ)の美(チュラ)らさ 肝持(チムム)ちのゆたかさよ まじゅんいか やー いえー カマル
 
〈高利貸登場〉
〔カイサレー節〕
高利貸
くま いちゅた いちゅた
 
カマル
誰(タル)がやいみせーらー
 
高利貸
ぬがひやーぬが 我んてぃやーイエー我ったさがい銭小(ジングヮー) 今日(チュー)いみでー 明日(アチャー)りちのびゆい 明日(アチャ)いみでー あさってりち延(ヌ)びゆしが 我(ワン)がやーかんせー待たらんぐと
今日(チュウ)とーてとらち とらせーなー
 
チルー
さがいめーや ちゃっさがやいびら
(さがいめー=借金)
 
高利貸
ただ一銭五厘どぅやいびーる
んだ たりんだ 取らちくみそーれー
 
チルー
うりなーうり 取って とらせーなー
 
高利貸
はたそろそろ やいびーさやー けーしむるしや なまやねーやびらん
 
チルー
けーしむるしや しまびーいさ
 
高利貸
ちぢにかみやびら
 
〈松に向かって〉
高利貸
イエーヒャー エー いやーや 那覇(ナーファ)ぬ してまくひんじゃー二才小(ニーセーグヮー)りる思(ウム)むたしが
いやーや 那覇(ナーファ)ぬまぎーやてーさやー
 
〈高利貸 家へ帰る〉
〔連ね〕

別りてや行ちゅい 何(ヌー)し情(ナサキ)かきが
 
カマル
船(フニ)のかじ毎(グトゥ)に 文(フミ)ゆたぬま
 
〔ウヤンマ節〕三線
−幕−
 
 

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