続 渡慶次の歩み
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第11章 渡慶次の芸能と年中祭祀
第5節 組踊「矢蔵の比屋」の解説と脚本
【歌】[子持節]
 玉黄金産子 此の世にが居ゆら
 夢の告げ知らし 誠どんやりば
 あきよ此母や 露の日ゆたゆて
 一人生ち残て いちゃがすゆら
 
乙樽
なまに夜(ユ)まんぐぃになやい又居(ウ)りば先行(サチイチ)や見(ン)らん 村にかから 此ぬ宿の内に物(ムヌ)頼みさびら
 
ハーメー
誰(タル)がやいみせら
 
乙樽
我身(ワン)や首里方(スイカタ)の者(ムン)どやいびしが 金武(チン)に思事(ウヌクトゥ)ぬあとて行ちゃびしが 闇ぬ夜(ユ)ぬ暗さ行く先(サチ)ん見らん
御情(ウナサキ)に一夜 宿からちたぼり
 
ハーメー
首里親国(スイエイグニ)なれぬ くがと道いもち 足だるさみせら 御(ウ)くたんりみせら
内に入りみそち 御休(ウヤス)みゆみそり 田舎山国(イナカヤマグニ)や 物盗(ムヌトゥイ)んあやべもの
あねらわんともて御休(ウヤス)みゆみしょうり
 
上地モーヤー
此クリや 蔵底山クラシチヤマ に住む 上地イーチモーヤー 越来グィークどんや
 
越来どん
何事(ヌーグトゥ)が何事(ヌーグトゥ)が
 
上地モーヤー
今日(チュウ)ぬ夜首里(ユルスイ)ぬ女(イナグ) 糸着(イトゥジン)や赤しゃふたら打重(ウチカサ)に重(カサ)に着(チ)ち 登川(ヌブンジャー)
兼箇段(カニカダン)大主宿(ウフシュウ)に泊まて居(ウ)んでぃ聞(チ)ちょん 急(イス)じ行(ン)じはじ取ろうや
 
越来どん
引(ヒチ)き合しどやゆる 急(イス)が急(イス)が
 
上地モーヤー・越来どん
やあ女イナグ 衣装てるまじり はじりはじり
 
乙樽
盗人ややてん 肝(チム)のあてたぼり 下着(シタジ)までん取りば赤裸(アカハダカ)なゆみ
 
越来どん
いや 女身(イナグミ)ややてん 赤裸(アカハダカ)なゆし ぬ恥かさが
 
乙樽
女(イナグ)てる者の赤裸(アカハダカ)ならりゆみ 恨みしや此の身 殺(クル)ちたぼり
 
上地モーヤー・越来どん
いや 死にぶさるあるい
 
〈斬る〉
上地モーヤー・越来どん
衣装(イソウ)はじ取(トゥ)たい 急(イス)が急(イス)が
 
ハーメー
御座敷(ウザシチ)に高く物音(ムヌウトゥ)ぬあしが 御主前(ウシュメー)ん起(ウ)きみそり 出(ン)じゆなびら
 
御主前
昨夜(ユウビ)の真夜中(マユナカ)に宿借(カ)たる女(イナグ) いちゃし来(チャ)る事が急(イス)じ語り
 
乙樽
かんなたる我身(ワミ)や棚原(タナバル)の按司の御側馴(ウスバナ)りすたる乙樽(ウトゥダル)どやゆる
二人(タイ)ぬ按司主位(アジスイ)や矢蔵の比屋にたばからり
産子(ナシグヮ)虎千代や金武寺(チンティラ)にやらち 見ぶさうらちらさ しじららんあてど とめて待ちゅんてぃ
此ぬ宿に泊やびて 山盗人(ヤマヌスル)いちゃてぃ命(ヌチ)や失なやい 哀れ虎千代が我(ワン)とめて来りば
山盗人(ヤマヌスル)殺(クル)ち矢蔵の比屋討ち果ち 按司主位(スイ)と我身(ワミ)の死出(シジ)が山路(ヤマミチ)に 道明(ミチアキ)て呉(クィ)りよ胸明(ンニアキ)けて呉(クィ)りてやり
母親(ハハウヤ)の遺言(イグン)てい語てたぼり 又ん御願(ウニゲイ)や 我死出(ワガシデ)の後や 金武(チン)ぬ通路(トゥイミチ)ぬ道ばたに深く
たゆいはからやい うくてぃたぼり
此御恩(クヌグウン)にへや 後世(アトユ)までん 胸(ンニ)に思(ウミ)とめて行ちゅん 思(ウミ)とめて行ちゅん
 
御主前
やあ 按司じゃなし按司じゃなし うり 御薬(ウクスイ)ん気張(チバ)てうさがとて
産子(ナシグヮ)虎千代に 出逢(イチェー)いみそれ やあ按司じゃなし
あきよ按司じゃなし肝(チム)ふりていめんああ按司じゃなし
御遺言(ウイグン)のごと 金武(チン)の道中(ミチナカ)に たゆいはからやい葬(ホウ)むやい上ぎやびら
−幕−
〈道行〉
虎千代
我身(ワミ)や金武寺(チンティラ)ぬ御育(ウスダ)てぬ虎千代 母親(ハハウヤ)ゆ拝(ウガ)みぶしゃ しぢららんあてど
座主に 4、5日の暇(イトゥマ)いて今日(チュウ)や 一目(チュミ)拝(ウガ)まいて 出(ン)じて行ちゅん
 
【歌】 [長金武節]
 我身や金武寺の 御育ての虎千代
 金武の寺出て 向て行く先や
 伊芸屋嘉の浜の 送る浜波に
 我衣袖濡らち 七日浜歩で
 
虎千代
のがし浜千鳥 恋々(クイクイ)と鳴(ナ)ちゅる 聞(チ)きば母親(ハハウヤ)の面影(ウムカジ)ぬまさて
 
【歌】 [長金武節]
 石川走川一人打渡て
 夏のしらしちゃ 流れたゆて
 栄野比川崎の 松下にしだり
 登川の村や 今ど着ちやる
 
虎千代
此ぬ道ぬ側(スバ)に人葬(ヒトマチ)てあしが 無情(ンジョ)やいちゃしちゃる人がやゆら いちゃしがな今日(キユ)や此ぬ墓ぬ前(メー)に
知らし母親(ハハウヤ)ぬ面影(ウムカジ)ぬまさて 行ちん行かりらん立ちん立たりらん
 
御主前
玉の按司じゃなし 哀り亡(ナチ)き後(アトゥ)
花ゆ祀(マチ)やびら 水ゆ祀(マチ)やびら
 
虎千代
御主前(ウスメー)が祀(マチ)て泣く人や誰(タル)が かなしさやたんり語てたぼり
 
御主前
哀れさみ童(ワラビ) 聞きぶしゃゆありば 近く寄り細(クマ)く語て聞(チ)かさ
一昨日(ウッティー)ぬ夜(ユル) 三十頃(グル)の女(イナグ) 我が宿に泊たしが 山盗人(ヤマヌスル)しざぬ 何時(イチ)の耳しじに聞(チチ)き聞(チ)きて来(チャ)ら
夜(ユル)の真夜中(マユナカ)に宿に踏み入やい 衣装はじ取やい深く傷付(キジチ)きて 細々(クマグマ)ゆ聞(チ)きば棚原(タナバル)のうなじゃらゆ
金武(チン)ぬ寺(ティラ)いめる 御産子(ウナシグヮ)虎千代が 行逢(イーチェー)しみせんり くぬ災いしいんじゃち
夜明(ユア)き白露(シラチユ)となり果てゆみそち
 
虎千代
あきよ 母親(ハハウヤ)ゆ
 
【アーキー】
 やあ母親(ハハウヤ)ゆ 我身(ワミ)や虎千代るやゆる
 
御主前
金武(ティン)の寺(ティラ)いめる産子(ナシグヮ)でやびる 今(ナマ)ど産子拝(ナシグヮウガ)まびる
 
虎千代
あきよ とめて来(チュー)る母ん拝(ウガ)まらん 我身(ワミ)ん母親(ハハウヤ)と共(トゥム)にならな
 
御主前
はあはあ 暫し待ちみそうり 犬死ゆ見せる 親がなし御遺言(イグン)の我身(ワミ)にあやびむぬ
山盗人(ヤマヌスットゥ)殺ち矢蔵の比屋ん討ち果ち 二人(タイ)ぬ按司ぬ死出(シデ)の山路(ヤマミチ)に道開て呉(クィ)りゆ 胸開(ンニアキ)けて呉(クィ)り
てぃやい い言葉ぬあむぬ 御遺言(ウイグン)ぬあやびむぬ 親がなし遺言(イグン) 急(イス)じあぎやびら
 
虎千代
義理(ジリ)んことわいん御主前(ウスメー)が言葉(クトゥバ) 敵討(ティチウ)ちゅる事に 計らやいたぼり
(御主前の家の中)
御主前
とうとう 今日(チュウ)や我が宿に御(ウ)ちけい拝(ウガ)まびら ありに御座(ウザ)みそり 山盗人(ヤマヌスル) 腹黒(ワタクラ)さから
又ん聞(チチ)き付(チキ)けて来(チュー)る筈でむぬ 此ぬ太刀ゆうさぎらば 身振り立ちみそち打ち殺(クル)ちみしょり
身腰(ミグシ)立てさびら
 
上地モーヤー・越来どん
此りや蔵底山(クラスクヤマ)に住む
上地(イーチ)モーヤー越来(グェーク)どんや
 
越来どん
何事(ヌーグトゥ)か 何事(ヌーグトゥ)か
 
上地モーヤー
首里方童(スイカタワラビ) 糸衣(イトゥジン)や打ち重ね重ね着(チキ)て登(ヌブン) 川(ジャー) 兼箇段(カニカダン)
大主宿(ウフシュ)に泊て居(ウ)んり聞(チ)ちゅん 急(イス)じ行(ン)じはじ取ろうや
 
越来どん
やあ はじ取ろうや
引合(ヒチアー)しどぅやゆる急(イス)が急(イス)が
 
虎千代
親の敵討(テチウ)ちゅん 知らんあたみ
 
山盗人
いや 推参(シイサン)な童(ワラビ)
〈戦う。虎千代勝つ〉
御主前
出来(ディカシ)みそうち思子(ウミングヮ) 出来(ディキ)やびて思子(ウミングヮ)
 
ハーメー
手早(ティーベー)く肝早(チムべー)く 思子(ウミグヮ)程 あやびいん
 
虎千代
御主前(ウシュメー)とはーめーが故(ユイ)に 敵討(ティチんウ)ちしまち ふくらしゃどあしが
津堅田(チキンダ)の産子(ナシグヮ)山戸(ヤマトゥ)ど 伊集村に隠り敵討(ティチウ)ちゅるたくみ 御準備(ウシタク)ぬくくり
しちいめんてやり風(カジ)の元(ムトゥ)たゆて 知らしびのありば 此まから直(シグ)に行かんしゅむぬ 御主前(ウシュメ)とはーめーに暇(イトゥマ) 乞(グイ)ゆさびら
 
御主前
御願事(ウニゲグトゥ)定み 御望(ウヌズミ)ゆ定み いひん片時(カタトゥチ)ん御急(ウイス)じみそうり
 
虎千代
やあ 御主前(ウスメー)の此御恩(クヌグウン)にへや肝(チム)に思(ウ)み染(ス)て 命永(ヌチナガラ)いて 待ちゃいいもり
 
御主前
永らへて居(ウ)りば 又拝(ウガ)む定め 明日(アチャ)ぬ日ん知らん露の身どやしが 御肝(ウチム)いさみとて勝ち戦召(ミ)しょり
肝(チム)に願(ニゲ)しちょて 御待(ウマ)ちさびら
 
虎千代
立ち別りかねて いちまりん名残(ナグ)り命(ヌチ)ぬ定みや互(タゲ)に知らん
 
御主前
遠道(トゥーミチ)ゆやりば 急(イス)がにやしまん
とうとう御立(ウタ)ちみしょり
虎千代 永らいていもり 又ん拝(ウガ)ま
〈虎千代 御主前と別れる〉
 
【歌】 [長伊平屋節]
 永らへていもり 又ん拝ま(下句)
 
森川の比屋
棚原(タナバル)の按司ぬ産子守役森川(ナシグヮムイヤクムイカワ)の比屋 此ぬ間(エダ)や我身(ワミ)ん夜昼(ユルヒル)ん忍(シヌ)で 村々ゆ廻(ミグ)てぃ散々(チリジリ)になたる
群衆(ニンジュ)ゆ集(アチ)み 強者(チワムン)ぬたぐい押(ウ)し連(チ)りてからに 与那原(ユナバル)に行じゃい 兵法(ヘイホウ)の奥手(ウクディ) 弓矢たちゃい
鉾(フク)ぬ秘伝(ヒディン)残(ヌク)らじにわたち
矢蔵の比屋が城(グシク)に走登(ハイヌブ)て 火ぬ見さんとむてたばかやい居(ウ)たし 産子(ナシグヮ)の行方(ユクイ) 聞(チチ)ゆ定みやい
内間の子(シー)連(チ)れて 中城伊集村に 百勇(ムムイサ)み勇(イサ)で 忍(シヌ)で行ちゅん
やあ 内間の子(シー) 油断しやしまん 急(イス)が急(イス)が
 
内間の子
御急(ウイス)じゆ召(ミ)しょり 御供(ウトゥム)さびら
 
〈口説に合わせて森川の比屋と内間の子が踊る〉
 
【歌】 [口説]
さても移りば変り行く 水に木の葉の
裏表 となりかくなり 此の程や
編笠深く顔隠ち
行きば程なく 我謝安室 浜の千鳥の友呼びや
聞くにつけてん哀れなり 内間嘉手苅
打渡て「エイ」 忍び忍びに立出でて 今(ナマ)る 伊集村や忍で着(チ)ちゃる
 
森川の比屋
此ぬ宿の内に案内(アンネー)ゆ頼ま
 
門番
誰(タル)がやいみせら
 
森川の比屋
棚原(タナバル)の按司の産子守役森川(ナシグヮムイヤクムイカー)の比屋(ヒヤ) 産子拝(ナシグヮウガ)まてい ゆしりやい居(ウ)もの 此ぬ様(ユー)うんぬきてぃ呉(クィ)れよ
 
門番
まこと産子守役(ナシグヮムイヤク)がやゆら 細々(クマグマ)の次第拝(シデーウガ)まさい召(ミ)しょり
 
森川の比屋
棚原(タナバル)の按司の産子守役森川(ナシグヮムイヤクムイカー)の比屋 此ぬ内や我身(ワミ)ぬ散々になやい 散々になたる 群衆(ニンジュ)ゆ集め
強者(チワムン)のたぐい 押(ウ)し連(チ)りてからに 与那原(ユナバル)に行じゃい 方々のおくれ弓や 太刀剣(カタナ) やい鉾(フク)の秘伝残(ヌク)らじに渡ち 「ほう」
矢蔵の比屋が 城に立登(タチヌブ)て 火じみさんとむて たばかやい居(ウ)たし 御産子(ウミングヮ)の行方(ユクイ)聞(チ)ちゆ定みやい 内間の子(シー)連(チ)りて ゆしりやい居(ウ)むぬ 此ぬ様(ユー) うんぬきてぃたぼり
 
門番
此の上(イー)や いひん疑(ウタゲ)やねらん 内に入りみそうち 行逢(イチエー)ゆみしょり
〈山戸、虎千代、森川、内間、門番登場〉
 
虎千代
我身(ワミ)や棚原(タナバル)の一人(チュイグヮ)子虎千代ゆ
 
山戸
我身(ワミ)や津堅田(チキンダ) の産子(ナシグヮ)山戸(ヤマトゥ)ゆ
やあ 虎千代ゆ 此ぬ間(エダ)や互(タゲ)に忍(シヌ)び隠りとて 兵法(ヘイホウ)や習て 弓矢、太刀、鉾(フク)の秘伝 残(ヌク)らじに渡ち
此ぬ間(エダ)の思(ウム)い 明日(アチャ)の日の限り 親の敵(ティチ)仇(カタチ)討たんしゅむぬ 習い取たる手並 振り立てて見しら
 
虎千代
此ぬ間(エダ)の手並 今日(チュウ)るあらわする 互(タゲ)に振り立てて 手並見しら
 
森川の比屋
とうとう 御振(ウフイ)立て召(ミ)しょり 拝(ウガ)でなびら
 
【歌】 [揚作田節]
 忍び隠れとて 習れ取たる手並
 敵の首筋に 立たなうちゆみ
 〈虎千代クーサンクに踊る〉
 
森川の比屋
御振(ウフイ)立(タ)ちみしょり 拝(ウガ)りなびら 敵(ティチ)ゆ討取(ウチトゥ)ゆし疑(ウタゲー)やねらん
 
山戸・虎千代
やあやあ 互(タゲ)に肝合(チムアワ)ち手配(ティクバ)いぬ事に明日(アチャ)ぬ明々(アキアキ)に城(シル)に押(ウ)し寄(ユ)して 起立(ウクリ)たん内にしみ掛ける時(トゥチ)や
矢蔵の比屋やとかく用心(ユウジ)ぬん知らん あわて様出(サマン)じて戦(タタカ)いるちむい 心落付(ククルウチチ)ちょて殺(クル)ちしてら
 
一同
御拝留(ウガントゥ)みやびて
−幕−
 
山戸・虎千代
敵寄(ティチユ)してしまん 急(イス)が急(イス)が
一同 御急(ウイスギ)ぎゆ召(ミ)しょうり 御供(ウトゥム)さびら
 
森川の比屋
さり 矢蔵の比屋の城に寄(ユ)してあやびしが ぬじ討にさびみ みな殺(グル)しさびみ
 
山戸・虎千代
ぬじ討ちしちや武士の道立たん 互(タゲ)に打ち名乗(ナヌ)て 戦花咲かさ
 
森川の比屋
やあ矢蔵 津堅田(チキンダ)の按司と棚原の御代継(ウユチ)じ御産子(ウミングヮ)
虎千代と山戸がうがたゆむ首や 御望(ウヌズミ)でむの急(イス)じ首下(サ)ぎて出(ディ)様(ヨ)り出(ディ)様(ヨ)り
 
虎千代
やあ矢蔵 耳(ミミ)ぬ根(ニ)よ明(アキ)て深く聞(チチ)とみり うがたちがくらさ 悪慾(アクユク)ゆたくで 二人(タイ)の按司主位(スイ)
ぬじ打ちに殺(クル)ちうかとしち居(ウ)とて 百姓したがやい生楽(イチラク)ゆ好(クヌ)で 悪ちむてからや 今日(チュウ)までの命 風(カジ)ぬ辺(ビ)にとどむ嵐 吹く花ぬ落(ウ)ちる葉(ファ)の露心(チユグクル)なさんしゅむぬ
 
矢蔵の比屋
命助(ヌチタシ)きたる恩(ウン)や忘りとて 謀叛(ムフン)くわたちゅし 無理やあらに
やあ呉屋(グヤ)の大役(ウフヤク) 出(ン)じてあの童(ワラビ)切(キ)り殺(クル)ち来(チ)ょうり
 
呉屋の大役
世界(シケ)にとゆまりる呉屋(グヤ)の大役(ウフヤク) 一人(チュイ)二人(タイ)と戦ゆる我身(ワミ)や又あらん 千人万人掛り掛り
 
森川の比屋
いや森川(ムイカー)やくまに居(ウ)ゆん 相手(エーティ)する者(ムヌ)や居(ウ)らに居(ウ)らに
 
虎千代
やあ森川(ムイカー)暫し待て 此ぬやからんどや 我親討(ワンウヤウ)ち取(トゥ)たしゃ
やあ我身(ワミ)や虎千代どやゆる 出(ン)じて我が刃(カタナ)受けて見より
 
矢蔵の比屋
ああ 口惜(クチウ)しや残念(ザンニン) 供(トゥム)の強者(チワムン)ぬまじり 討ちゆ果さりて 運の極(チワ)まりやはて戦(イクサ)知らに
 
森川の比屋
さり産子(ウミグヮ) いちゃし犬猫(インマヤ)ぬ虎(トゥラ)ぬ前(メ)に居(ウ)ゆが 急(イス)じ踏入(クミイ)やい みな殺(グル)ししゃびら
〈追い掛けて幕内に入る〉
 
山戸・虎千代
残(ヌク)て居(ウ)る者(ムヌ)や 居(ウ)らに居(ウ)らに
 
森川の比屋
妻子(トゥジクヮ)かたくじり 残(ヌク)らじに殺(クル)ち 味方に一人(チュイ)ん怪我(キガ)んねーびらん
 
山戸・虎千代
悪企(アクダク)むやから 見りばやしまらん とてん一刀(チュカタナ)に殺(クル)ちしてら
 
森川の比屋
ほうほう 暫し待ち召(ミ)しょり このやからさんざんの悪企(アクダク)む罪(チミ)や 一刀(チュカタナ)にしちや 罪浅(チミアサ)さあむぬ
くんしみて置(ウ)ちょて 生(ナマ)ちじみに行(ウ)くなやい 按司加那志二所(ガナシタトクル)の御(ウ)ちかじに出(ンジャ)ち 散々(チリヂリ)にちじゃい 御祭(ウマチ)ゆさびら
 
山戸・虎千代
仇討(カタチウ)ち取(トゥ)たる 今日(チュー)の誇(フク)らしゃや 死じし二所(タトゥクル)ん嬉(ウリ)しゃみせら 今日(チュー)の誇(フク)らしや物(ムヌ)にたとららん 押連(ウシチ)れて互(タゲ)に踊(ウドゥ)て戻(ムドゥ)ら
 
森川の比屋
召(ミ)しぇるぐと 踊(ウドゥ)て御供(ウトゥム)さびら
 
【歌】 [立雲節]
かたち討ち取たる 今日のほこらさや
死じし二所ん 嬉りしやみせら
 
 

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